世の中には、言葉でくくれない事など、吐いて捨てる程在るだろう?
そう、例えば感情
好きと愛してるの違いについて良く考えてみるけど、20ン年生きてきて未だに分からない。
此って重症?
人間を愛してる。なんて言っておきながらこの疑問は相当滑稽なんだけどね。
『愛』には色々種類があるでしょ?
俺が言いたいのは恋愛の『愛』ね。
俺が人間に対する愛は不特定多数の人に分け隔てなく注がれてるもので、唯一絶対の人に対する『愛』ではないから。
あ、話しがちょっとそれたから戻すね。
よく言うよね。愛と憎しみ、喜びと悲しみは表裏一体。
理屈はわかる。どちらかを抱かなければ、決して生まれない相対する感情。
愛してるから裏切られた瞬間に憎しみを抱いた。みたいな昼ドラ、よくある。
今見てるテレビがまさに其れだ。
この公定式では『愛+裏切り=憎しみ』になる。
また『愛+決別=憎しみ』もあるよね。
愛する人が寝取られたー。殺されちゃったー。後は大切な人が傷つけられてとか?
こういった特異な例ではあるが、まぁ日常に行われてる事でもあるけれど、何らかのきっかけがないと人は人に悪意を持たない。
なら善意も同じだ。
善意を買うのは至極簡単ちょっと優しくして見せたり、俺の場合は笑顔一つだ。
悪意を買うのは其れを覆して見せればいい。ほら簡単。
なら、ここで至極簡単に手に入る『善意』から相手が抱く感情を『好き』としよう、そこからどうやって『愛』になるのか。
それと同様に『悪意』からなるものを『嫌い』としよう、それが何時の間にやら何故『憎しみ』になるのか。
ちょっと前置きが長かったね。
纏めてしまえば
『好き』≠『愛』 『嫌い』≠『憎しみ』
なのに
『好き』≒『嫌い』 『愛』≒『憎しみ』
になる訳だ。
「これってどう思う?」
そこまで一気に喋って隣に座ってるバーテン服に問えば、額に青筋をピキピキと浮かべながら固まっていた。
怒っているわけじゃない、シズちゃんの脳みその許容範囲を超えてしまったみたいだ。
分かりやすいように纏めたものを紙にまで書いてあげたのに、まず等号の意味が分からないらしい。
情けないね、シズちゃん
とは思ったが今は敢えて口にしないでおいた。
シズちゃんは態々書いてあげた紙を握り潰して「知らねぇよ」とゴミ箱に投げ捨てテレビのチャンネルも適当なのに変えてソファに踏ん反り返ってる。
仕方ないから俺はまた一人脳内で考えなければならない。
『好き』とか『愛』が良く分からないというか、唯一人の人間にだけ『愛』を注ぐという事がまず分からない。
だって、其れが『好き』と『愛』の違いの第一歩でしょう?
この人、だけなんて…
俺からしたら人間皆愛しい存在だ、(唯一人を除いてね)
なのに唯一人だけなんてそれは『執着』ではないだろうか、『好き』と『愛』と『執着』
あぁ、ほら、またピースがでてきた。
『好き』≠『愛』 『嫌い』≠『憎しみ』
『好き』≒『嫌い』 『愛』≒『憎しみ』
何処に当てはまるんだろう…
否、『執着』は何処にでも当てはまる
『愛』≒『執着』
でも
『憎しみ』≒『執着』
でもしっくりくる。
俺はシズちゃんが嫌い。
だって人間じゃないもの。
だから死んでほしい。
でもこれは憎しみとは違うと思う。
死んでもらわなくちゃいけないから其れまで俺は平和島静雄に『執着?』をし続けるのかも
波江は言っていた。
『嫌いなら無視すればいいじゃない。そこにいないと、自分の中から平和島静雄を消せばいいのよ』
なるほど、と思ったけど。そんなの出来るはずがない。
シズちゃんは全てにおいて目障りだし、言動が大きい、町一つ壊滅させられるくらいの化け物を自分の中から消すなんて無理でしょ?
『恋にも似た執着ね』
なんて波江が『恋』なんて馬鹿なこというから、しかも運悪くドロドロの昼ドラなんて見ちゃうからこんな事考える破目になるんだ。
嫌だな、このまま思考を続けてると嫌な答えに辿り着きそうだ。
だから否定して欲しくシズちゃんに話したのに丸投げするし。
ぐちゃぐちゃして分からない。
分からないから俺んちのソファの隣に座ってテレビを見てるシズちゃんが実際自分自身の中で、どんな役割でどれくらいの率を占めてるのか俺にも分からない。
大嫌い、死んで欲しい、大嫌い
でもそれは人間に対する『愛』とどちらが大きいんだろう。
イコールにはできない、多分『シズちゃん』≧『人間』
否、なんとなく…『シズちゃん』>『人間』
な気がする…なんか嫌だ。
それでもそれは『嫌い』って感情でのものだ。
友達なんて反吐が出るし、恋人なんて言われた日には寿命宣告された時と同じくらいお先真っ暗の顔面蒼白になる。
でも、今一緒にいて、一緒のソファに隣同士で座っちゃってテレビを見てる。
夜になればSEXもする。
まぁSEXは喧嘩の延長かな、売り言葉に買い言葉
童貞童貞おちょくってた高2の春に無理矢理筆卸の相手にされた。
相手は自業自得だって嘲笑って「処女卒業出来てよかったな」とかまで言いきってくれた。
だから俺も頭に来て「お陰様で」なんて不敵に笑って見せたもんだから未だにこんな不毛な、でも誰にも迷惑掛けない喧嘩を水面下で催していた。
これってさぁ
どうゆう関係?
俺にとってのシズちゃんってなんな訳?
って思ったら長ったらしく思い悩む破目になった。
だってほら、人間関係って双方の感情から定義されるものでしょう?
人間って、
案外難しい生き物なんだなぁ…
まぁ俺とシズちゃんを人間のカテゴリーに組み込むとって事だけど。
俺の中は、ゴチャゴチャとしたモノでいっぱいで
多分、確かなものなんて何一つないんだろうな…
いっつも理屈屁理屈ばかりで、本能のまま行動するシズちゃんと違う。
こうしたいって思うものがきちんと心の真ん中にあるシズちゃんと違う。
俺はシズちゃんといると自分の人格すら、疑ってしまう。
だからシズちゃんは嫌いなんだ。
そう、今こうして考えている事自体不確かなモノで、答えを出したって其れが正しいものかも分からない。
俺が此処まで考え抜いたものをシズちゃんが否定すれば其れは間違いになりえる訳だし、
「俺たちの関係って何だろうね。」って聞いてもどうせ「腐れ縁みたいなもんだろ」的に言われてお終いな気がする。
でもそうじゃない。
否、そうかもだけど、ちょっと違う。
お互いが嫌いなのに、なんで一緒にいるんだろう。
俺の疑問を単純化させるとそういう事になる。
でも本当はもっとごちゃごちゃとあるよ。
最初に言ったとおり俺は『好き』と『愛』の違いがわからない。
特定の人だけを愛するということがわからない。
でも俺は特定の人だけが嫌い、しかも大嫌い。
この際愛って何よ?な、疑問は置いておこう、重要なのは『だけ』つまり『執着』
うん、置いておこうとか言っちゃったけどやっぱ出そう。
特定の人『だけ』好きという感情がよく分からないから、特定の人『だけ』嫌いという自分が分からなくなった。
でも嫌いなのも事実で変わらない。
俺だってシズちゃん以外にも「この人はなぁ〜」って人はいる、でも苦手とか馬が合わないの域をでない。
シズちゃんが化け物だからこんなに大嫌い?じゃあセルティは?って自分でつっこんで思考停止。
相性が合わないと言ったらそれでお終いだけどなら一緒にいなきゃいい。
難しいけど波江の言うとおり無視すればいい、(否、池袋行ったら問答無用でシズちゃんに会っちゃうんだけど…)
でも相手にしなきゃいいだけだし(それこそ簡単じゃないけど)
なら楽しみは減るけど池袋行かなきゃいい…
池袋に行かないとか考えられない…
…俺の中で多分シズちゃんは特別、もちろん悪い意味でね
でもどうしてシズちゃん『だけ』なのか分からない。
もっと言っちゃえば
こうモヤモヤみたいなのがあってそれらを全て説明するには至極時間がかかるし、
現在存在する言葉で良い表す事ができない感情のベクトルがシズちゃんに向いてる。
そう、俺はここら辺でモヤモヤしてる。
だからこそ知りたい。『愛』って何さ、『好き』と『愛』の違いって何?
それが分かれば『嫌い』も分かるでしょ?
曖昧な感情が行き交うから俺は必死に感情論について考えていた。
でもこのまま考えてた禿げてしまいそうだ。
「はぁ〜」
気がついたらため息が出てた。と目の前のテーブルがガタガタ揺れてたいた。
地震か!?と思ったけど、ふと隣のシズちゃんを見ると発信源がそこなのがわかった。
顔面に「うるせぇ」って書いてあるような形相。
あれ?口に出してたのかな?
「臨也、手前隣でブツブツブツブツうるせぇんだよッちったぁ黙れねぇのか!?」
なんだか今にも目の前のテーブルを投げてきそうな勢いなのに、シズちゃんの手はテーブルを掴んだまま未だに投げては来ない。
シズちゃんもシズちゃんで二人の時は案外寛大というか優しい。
まぁ俺以外の奴にはもっと優しいんだけどね。
「シズちゃん、一つ聞いてもいい?」
怒ってるとこ悪いけど、と一言付け加えて話掛けてみたところ、掴んでたテーブルを離して俺に向かいあった。
うん、寛大だ。
「…なんだよ」
ぶっきら棒に問い返す化け物に、笑いはこみ上げても今更怒りなどは覚えない。
俺はさも其が当然かの様に話を続ける。
極々簡単に
「シズちゃんにとって俺って何?」
「………………はぁッ!?」
うわぁいい反応だなぁシズちゃん、でも顔だけが取り柄なのにその顔は無いよ…
「何言ってんだ、手前頭でも沸いたのか?」
シズちゃんは額に青筋立てながら顔を真っ赤にしてた。
あぁなんか噴火寸前の火山みたい
「…多いに真剣なんだけど…」
「そんなの嫌いな奴に決まってんだろ」
ったく、なんなんだよ、と舌打ちのおまけ付きで答えてくれたシズちゃんに感謝の気持ちなど出てきやしない。
テレビに視線を戻してしまったシズちゃんに俺は更に食い付いた。
「ならなんで今一緒にいるの?」
「…」
あ、青筋が一個増えた。しかも答えないって事はシズちゃんにも分からないんだ。
そりゃそうだよね。
だからちょっと質問を変えてみた。
最初に話した長ったらしいものを出来るだけシズちゃんにも分かるように簡潔にかつ、単純に。
「好きと愛してる。嫌いと憎い。どう違うの?」
簡単なとこから順序良くいこうと思ったらさっきと全く見当違いな質問になってしまって、シズちゃんは少しいぶかしんでる。
「さっきの質問となんか関係があんのかよ」
「ん〜あるようで、ないようで、」
今度はシズちゃんがため息をついて「全然違ぇだろうが」ってまたテレビを見ようとしたから、俺は透かさずシズちゃんの服の袖を掴んだ。
「どこが違うの?」
「うわッ面倒くせぇ」ってモロに顔に出てる。
仕方ない、気になるのだから、感情論についての本はいくつか読んだ。
そのどれもが、長ったらしくその感情が起こりうる原因を理屈で捏ね繰り回し医学的、科学的に証明されているだけで、肝心のとこは曖昧に誤魔化されている。
でも俺が知りたいのはそんなんじゃないんだ。
本能の男『平和島静雄』
シズちゃんなら面白い答えをくれそうな気もする。
「どこが、とかねぇだろ、頭で区切るんじゃなくて心で区切ってんだから。言葉で説明なんてできるか」
「うわ、くさ」
思わずでたセリフにとうとうテーブルが飛んできたけど、それをひょいと横に避けて(あぁ、そんなもんか)なんて妙に納得した。
ちなみにテーブルは見事壁に当たって壁もろとも壊れました。(新しいの買わなきゃなぁ…)
「手前が言わせたんだろーが!!」
なんてシズちゃんがギャンギャン言ってるけど、そんなの気にしない。
いつもの事だから。
其れよりも、シズちゃんに聞いて欲しい事がもっとあるんだ。
「ねぇ、シズちゃん俺はシズちゃんが嫌いだよ」
「ああ゛?」ってシズちゃんが今度はソファを持ち上げてくるから投げる前に「でも」と言葉で制してみる。
「シズちゃんへの嫌いって気持ちは、人間への愛より大きいみたいなんだよね」
それにシズちゃんは「?」みたいな顔して「おぉ」とか言ってとりあえずソファを床に戻した。
でもいつでも投げられるようになのか背もたれのとこを掴んだままなのはシズちゃんらしい。
「嫌いなのに嫌いだけじゃなくてゴチャゴチャとしたものもあって、それが何なのか分からないんだよね。言葉では表せないようなたくさん、だけど一つのものがシズちゃんに対してあるんだよ。俺はシズちゃんが嫌い、でも今だってこうして一緒にいて、そのゴチャゴチャしたものがそうさせてるのかもって思う訳だ。シズちゃんは其れがなんだかわかる?」
「…手前にわかんねぇもんが俺にわかるわけねぇだろ。」
シズちゃんは途中から言ってることが分からなくなったのか、聞くのが面倒になったのか適当な返事をしてきた。
そういうシズちゃんは嫌い。
「ねぇ、シズちゃん、俺が最初に話した話し覚えてる?」
シズちゃんが床に下ろしたソファに腰を下ろして、シズちゃんを見上げてみた。
するとシズちゃんは当たり前のように俺の隣に座る。
ほら、なんかモヤモヤゴチャゴチャしてきた。
「『好き』と『愛してる』は同じじゃない、『嫌い』と『憎しみ』も同じじゃない。でも『好き』と『嫌い』は殆ど同じで『愛』と『憎しみ』も殆ど同じなんだよ」
其処まで言うとシズちゃんはやっとあの等号の意味が分かったのか「あぁ」と納得した顔をしたけど、数秒後何かに気付いたのかバッと真っ赤な顔をしてこちらを向いた。
そして、俺はもう一度はじめと同じ質問をした。
「ねぇ、これってどう思う?」
首を傾げて問う俺にシズちゃんはいきなり立ち上がって顔を赤らめたまま「俺は手前が嫌いだ!」って本日で一番でかい声で叫んだ。
「うん、知ってる。俺も嫌いだし。」
あ、青筋がまた増えた。
なんで血管切れないんだろうシズちゃんの神秘だ。
「シズちゃん、俺のことの嫌いなのになんで一緒にいるの?」
その質問にシズちゃんは沈黙した。
シズちゃんも良く分からないんだろう。
「何でだろう」って顔に書いてある。
「手前はそんな事グタグタ考えてやがったのか?」
そんな事かぁ、うん。そんな事だ。
くだらない事だ。
だって、なんの感情があってとか関係なしに、今俺たちは一緒にいて、一緒の部屋でテレビ見て、喧嘩とも言えない喧嘩して、なんか語り合っちゃってる。
そう考えると、胸の奥がギュッとなってなんか苦しいんだ。
だから考えた。
答えが分からないからモヤモヤして、明確な何かがないから気持ち悪いんだ。
気持ち悪くなって吐き気がしてくる、だからシズちゃんと一緒にいたくないんだ。
なのに、一緒にいるんだ。
あぁ…何でなんだろうね。
嫌いって何が?好きって何? 憎いって、愛って何だろう。
感情ってなんなのさ、どっから湧き上がってきて、それをどうやって心なんてものに一纏めに出来ちゃうわけ。
知ってる?心ってさ脳みそなんだよ。大脳新皮質と大脳辺縁系と脳幹。
大脳から心が生み出されてんだってさ、医学と科学の進歩でハートなロマンはあっさり消されちゃったわけだ。
まぁそれでも、根本的なところは何の立証もされてないし、幾つかの例があるけど、俺にはどれもピンと来ない。
あれ、今の俺ってその大脳に脳を悩まされてる?滑稽も滑稽馬鹿らしくて…なんかこのまま考えてたら自己否定しはじめそう。
「難しく、考えるから分からなくなるんじゃないか?」
と、膝に顔を埋めようとしたらシズちゃんに指摘された。
あれ、もしかして、俺また声に出してた?
「シズちゃんの地獄耳」
「手前がゴチャゴチャうるせぇんだよ」
シズちゃんは立ち上がってソファの背もたれを引っ付かんだ俺が座っているから気が引けたのかそのままソファに座りなおしてた。
そして溜息を一つついてさっきの続きなのかなんなのか話し始めた。
「そうやって、変な事考えるのが手前で、良く分かんねぇけど…境界線わざわざ自分で作ってんの手前自身なんじゃねぇか?」
「あ、違うか。作りたいのか」なんて的外れ…でもない指摘は今はいらないかな…
一生懸命考えたんだろうけど、その割には言葉にまとまりがない。
「感情に境界線なんていらねんだよ、そんなんそん時の衝動みたいなもんだし、いつの間にそう思ってるもんだよ。んで自分が『そう』だって思ったんなら、それが手前の本物っつかなんつーかなんだよ!ンなもんに一々名前なんか付けてられっか!!」
コメントに困って適当に「そう、なのかな?」と言ってみると「分かんねぇっつっただろッ」と悪態を返されてしまった。
そうだね…
衝動…、いつの間にか…か、あははシズちゃんらしいや。
そうだね、よくよく考えたらシズちゃんと俺はまさに其れだ。勢いでヤッちゃって、いつの間にか一緒にいる。
でも相変わらず殺しあってる。
そんな関係に名前なんてつけられないし。
周りがこんな俺たちの関係知って『どんな関係?』なんて聞いてきても
俺たちは俺たちだから『そうゆう関係』、其れで良いんだよね。
うん、そっか、って一人で納得してるとシズちゃんは俺の方を向いてまた語ってくれた。
「心だって、確かに目に見えねぇし脳みそなのかもしんねぇけど…ちゃんと此処にあるだろ」
そう言ってシズちゃんが触れたのは俺の唇。
「口?」
「違う、多分…言葉。自分の欲求素直に表せる場所。」
『くさっ!!』て
言いそうになったけど、一生分の気力を使って堪えた。
シズちゃんがなんか格好よくみたし、こんな真剣な顔のシズちゃんそうそう見れるもんじゃないからね。
それでも喉の辺りがウズウズしてどうしようもなかったからシズちゃんの唇を借りて自分の口を閉ざしてみた。
そうしたら腕もウズウズしだしてそのままシズちゃんの首に腕を回した。
シズちゃんも俺の背に腕を回して俺のキスに応えてくれた。
そこで『あ!』となって直ぐシズちゃんから唇を離した。
「言葉ってさ、みんな嘘吐くよ、本当のことだけ言う人間なんていないよ。シズちゃん」
まぁ其処がまた人間の愛しい処でもあるんだけどね。
「嘘ってのはよ、自分の為とか、誰かのためとか、何か守りたい。隠したいから吐くもんだろ。優しさや、臆病の裏返しだ。それは感情や心からくるもんだろ」
やばい
うん、その通りなんだけど今のシズちゃんは反則だと思う。
臭い台詞が似合ってた。
キモイ
でも、今のでモヤモヤが酷くなった。
其は、『嫌い』なのか
其とも、『好き』なのか
はたまたは全く別のものなのか
どういった感情から出る気持ちなんだろう。
今、シズちゃんの頭かちわって中身を覗けたら
『好き』とか『嫌い』とか『愛』とか『憎い』とか俺のこのモヤモヤとかの意味が分かるのかな?
だって適切な言葉が見当たらない。
シズちゃんの華奢なのにしっかりと筋肉のついた身体の腕の中に閉じ込められて、なんて答えるべきか迷ってる。
だけど、シズちゃんは俺の背を掴で本当に、嬉しそうな顔をすらから多分、シズちゃんの中でこれが答えで、言葉になってんだろうなぁ
なんて独りで思う。
此処で、何か言ったらこの手はきっと離れていくって、なんとなく思うけど
無償に何か言いたくて堪らない。
此って、なんだろう?
なんて言葉にしたらいいんだろう。
此が恋愛感情だと言うなら余りにも間抜けな感じだ。
しっくりとくる言葉が見つからない…
俺ってばこんなに言葉のボキャブラリーが少なかったのかな?
違うね、名前なんて付けられないんだ。
気持ちとか、感情とか、心とか本当は名前の付けられないものばかりなんだ。
でもそれじゃ今の俺みたいに苦しかったから昔の人はそんなモヤモヤに無理矢理名前付けて、言葉にして誰かに伝えてたんだ。
俺も昔の人みたいになんか適当にモヤモヤに名前付けて伝えたいけど、いきなりハードル高いよね。
独り頭を捻りながら考えてる俺に、シズちゃんは苦笑まみれに「だから考えるだけ無駄だっつの」って俺から離れてしまった。
なんとも言えない空虚さ
シズちゃんは再びテレビを見始めて
俺は視界から追い出される。
掛ける言葉が出てこない。
今更適当な事も言えやしないし
あぁ、でも…
シズちゃんが離れた事で、分かった事が一つ
シズちゃんが
俺を見ないとかありえないって
俺ただシズちゃんに俺を見ていてほしいんだ。
だって俺だけこんなにシズちゃんの事考えてて不公平でしょ?