素から、死んでいるようなものなのだから



死にたいと想うのも、間違っているのかもしれない。


だってそうだろう?

俺の命なんて、命というのもおこがましい自然の摂理に反した存在なんだから。



















俺がレプリカだって分かってから、周りの反応は水面下で変わっていってる。
でも其れは仕方のないこと、変わると決めたのだから
大丈夫。
でも、

此処には、ガイがいて、ミュウがいて、ティアや、他の皆がいて、
だから大丈夫、なんて思えてたのは何時の頃までだったかな。



俺は何処にもいない


否、いる。確かにいるんだけど、
見えない透明人間にでもなったかのような錯覚。

其処にいるのに、いない。
その方が都合がいいのも知ってる。
まぁ、俺世界救うために死ぬって言うんだから、どう接して良いのか分からないってのもあるのかもしれないけど


分かってるよ。
周りがいけないんじゃない。俺自身に問題がある。
俺が町一つ滅ぼしたレプリカだから



たくさんの人たちの命を奪った、人間以下の存在だから。
そんな奴が今更世界救いたいから死にますって言われても困っちゃうよな、
俺自身そんな綺麗なこと思って1万のレプリカと心中します。
なんていってない。


もう、いいかなぁとか思っちゃったんだよ。

ガイがたった7年しか生きてないんだぞ

って言ってたけど、俺からしたらその7年が濃密過ぎて…、疲れた。
正直、自分が生きてるなんて言われても実感がわかない。


とりあえず俺はアッシュの完全同位体で生まれちゃったから色々利用されそうになり、実際に利用されて、見捨てられて。
利用された俺は馬鹿だけど、利用しようと考えてる奴が悪いだろって、最初思ってた。
でも、その相手がヴァン師匠だったから、自分の中でも消化できなかった。
ヴァン師匠が悪いんだって、言いたくなかった。
でも、次にヴァン師匠に会った時に、俺はやっと利用されたんじゃなくて、道具として造られて、町一個と一緒に消えるする為に今迄この世界にいたんだって自覚できた。
頭のどっかでは分かってたんだけど、やっぱり認めたくねぇ事だし…道具なんだから利用なんて言葉似合わないだろ?
認めたら、今の俺ってどういう状態って、分からなくなった。
どういう状態ってのは生きてるとは言えない生物、レプリカだし、じゃあ動いてるって言うとして、壊れる場所失った俺は今度は何すんだろうとか 他人が聞いたらどうでも良いこと考えながら、流されるまま今の事態になって、ジェイドに死んでください。と言われて、心の中で妙に安堵した。
この為に造られた道具だったのかも知れないって
やっと無駄に動いてた意味が見つかった気がした。

でも周りは生きろっていう。
そんなん言われても、今さら何?なんて捻くれた根性が顔をだして、自分でも吐き気がした。
『人間』なんてみんな同じ。
俺を、この力を、どんな悪いこと、良いことであっても、どんな形でも、使いたくて仕方ない。

確かに俺は、罪悪感があった。たくさんの人を死なせてしまったこと、そしてそこで俺も一緒に壊れられなかったこと。

だからできるだけ人の役に立とうとした。
でも正直言えば結構無理してた。

ナタリアも色々あって、足止めたりしてたけど、内心俺の方がすごいぞって辛いんだぞって思った。

俺なんて人間じゃなかったんだぞ、お前らにも見放されたんだぞ、しかも7歳だったんだぞ。って

自分でも思う。餓鬼の言い訳だって。

でも、ナタリアは許された。しょげてみんなに迷惑掛けまくったのに許された。
ガイもヴァン師匠と最初組んで俺ってかアッシュのこと殺そうとかしてたのに、許された。
アニスなんて、親が人質に取られてたからって言ってもイオンを死に追いやったみたいなもんだろ。なのに、…ずるいよな、身体が子供だから涙一個で許されるんだ。




そんな事延々と考えてたらなんだか仲間を仲間と素直に言えなくなった。

我ながら本当、餓鬼くさい理由だと思う。


其れがみんなにも伝わってるような気がする。



だからこんなこというのも思うのも、お門違いなんだけど
周りが一線引いてるような、壁、見たいな物を感じたり。

俺は俺で、そんな自分を何処か遠くから眺めてる。

本当は壁なんてなくて、俺の方が作ってるのかもしれないけれど、俺自身が其れを感じてしまっているから真実なんて関係ない。
自分がレプリカだって知ってから付きまとう劣等感と罪悪感は俺が壊れるまで消えない。

だってホラ、今だってアニスが、他のみんなとあんな楽しそうに話してんのに、俺とふと眼があうと

少し、歪むんだ。アニスの笑顔が…


俺の被害妄想なのか?
事実なのか分からないけど、さっきも言ったとおり俺の主観はそう捕らえて、他の考え方なんて出来ないからもうこの壁はなくならない。
俺が動き続ければ続けるだけ大きくなっていくんだ。



大丈夫。


大丈夫って、そう思ってれば
大丈夫になる気がしてたんだ。

いつから、そう思えなくなってたんだろう。

周りを見てて思う
俺には サヨナラと謂ったって、

サヨナラをする相手もいないのだから


サヨナラも存在しないのかもしれないんだ…って






実際ジェイドに死ね宣言されてるし




俺の死で

レプリカたちの消失で

世界を救えるなんて、なんて安い世界に造られたんだろう











寂しい…







なんていう資格ないのは分かってる。







でも、独りは嫌なんだ…!










ねぇ、誰か俺の事みてよ。



誰でもいいからさ…







凄く、虚しいんだ











買出しで偶々寄ったベルケンドの小道にいた小鳥の死体は酷く俺に似ていた。


誰も見てくれない
誰にも気付かれない

無惨な死体

無数の踏まれた跡
其でも、此処に放置

多分、否絶対俺もそうやって誰かに踏み痕を残してきたんだ。
だから、俺がこうなるのもまた必然の未来なんだろう






「…アッシュ?」

アッシュに関してこの上なく鼻の効くナタリアが声を上げて俺たちもその視線の先を見てみたら、俺と同じそれでも劣化なんてする筈もない綺麗な真紅の髪の男がいた。
みんながアッシュに駆け寄っていく。
俺が行けばアッシュは機嫌が悪くなる。
だから俺は其処から動けなかった。

なのにみんなはそんな俺にも気付かない。
否、敢えて気付かないフリでもしてるのかな…。
誰でも良いから
どうした?って駆け寄って
優しく笑って
頭撫でて…?







俺、これから死にに行くんだよ?



でも、そんな優しい
空想妄想何処にもない







早くおいでって誰かが遠くで謂ってる。

なんだか今日はアッシュも同じ宿に止まるみたいだ…

俺の居場所どんどんなくなってく…



違う、其処は最初からアッシュの居場所だ。
俺が奪ったアッシュがいるべきところだ。

でも、それでも
誰かが手を引っ張ってくれなきゃ
動けなくなればいいのに…



この小鳥みたいに、足がもげていればいいのに
そしたら、誰か少しは見てくれただろうか…?
なんで俺二本足なんかついてんだ?
此がなかったら、誰か抱き締めて移動させてくれるかもしれないのに




どうせ、劣化レプリカなんだから…

足なんか壊れてくれればいいのに






ルーク!ぼさっとしてないで、早く行きますわよ!

あ、ナタリアが喚いてる…



ルーク?どうした?

今度はガイだ…





でも、そんなの声じゃないんだよ。


俺はさ、もう俺の求める声しか
声だって認められないんだよ。


俺が俺じゃないから

俺を認められないように…



欠けてるんだ…

大切な一部が
当たり前だって、人はいうかな。
レプリカの分際でって怒られるかな

掌の小鳥の死骸を見て思った。
俺は、壊れたら形すら残らない。
初めからいないのと同じなんだよ。

俺は無残な死体になることすら許されないんだ。

「何してんだ?お前は」
いつの間にか俺の目の前に来てたアッシュは眉間にしわを寄せながら訝しげに俺を見てる。
驚いて何も言えない俺に、アッシュは痺れを切らしたのか乱暴に俺の手を引いて歩き出した。
ぐっと引っ張られて少し痛かったけど、俺の足が一歩前にでた。

やっと動きだした俺の足

同じはずなのに少しも似てない、手の温もりは、俺には伝わらない。

けど、前も俺を動かしてくれた事を思い出して心臓の奥が熱くなった。

アッシュはいつもそうだ。

いつも、アッシュだけだ。

俺を動かそうとしてくれるのは
分かってる、アッシュは自分と同じ存在と言われる俺が、ウダウダグダグダしてるのが嫌で、でもそういうの無視できるほど器用でもないから手を差し出して乱暴にでも引きずっていくような奴なだけなんだって。
そこに好意はこれっぽっちもないって。
でも、それは俺を見てくれてるってことだから、俺を認識してくれてるってことだから
だから、手袋ごしの手の温もりでも、乱暴すぎて手首も肩も痛いのも我慢した。
今はこれで良いと言う自分がいる。

なんて言ったらアッシュはきっと怒るんだろうな。
何様だ!?とか言われそう。

それから絶対に手を振り放す。だから思うだけで言わない。


でも逆に、そう例えば、この手を俺が突き放したら、



俺はどうなるのだろう…とか

アッシュはどう思うんだろう…とか



例えばこのアッシュの声が聞こえない処に行ったら、

俺はどするのだろう…とか

回線だって、使えなくなる日が来るかもしれないんだ。

俺は劣化してるんだから

考えるけど、


答えなんて出てこない…


だって俺は現にこうして、アッシュの手を取って

アッシュの不機嫌な声を聞いてる。

俺自身が動いてる限りアッシュから本当の意味で離れるなんてありえない事だから…

アッシュだけが、俺とこの世界を繋いでくれてる。



そう思って安心してたら不意に手を乱暴に振り解かれた。
「…ほらっ」
突き放された手が痛い…アッシュの顔を伺い見ようとしても、アッシュはこちらを見てすらいない。
そりゃ、そうだ。アッシュはこの世で1番俺が嫌い。
アッシュの方は俺の声を聞きたくて聞いてる訳じゃなくて、繋がりたいから、繋いでるんじゃない。
その方が都合がいいからだ。
いつだってそうだ、期待しちゃいけないって分かってたのに、誰かに優しさを求めちゃいけないって、
いつだって使われて捨てられるのは俺で…、誰かじゃなくて
みんなでもなくて…


認めてしまった俺




捨てられ続ける。
 


多分それが俺の一生




サヨナラが







いつも俺を独りにする…。












宿屋の部屋割で何故かアッシュと一緒の部屋になった。
アッシュは絶対一人部屋だろうとか思ってたら一人部屋が空いてなかったらしい。
それでも、ガイと一緒だろうって思ったらガイの方が気まずかったらしい。
じゃあジェイドと…って思ったらアッシュは腹の底が読めない上にいけすかない言ったらしい。
じゃあ、他の宿屋行けば?って思ったけど、ナタリアが嫌がったらしい。

なら、ナタリアと一緒の部屋にすればいいのにって思ったし、ナタリアも「私と!」って言ったらしいがアニスとジェイドから冷やかされアッシュの機嫌は最大下降、残ってしまった選択肢である俺を引きずって部屋に閉じこもってる。







……





………





二人の時は無言
此れは絶対

話しかけて来ないし。
話しかける空気すら作らない。

だから喧嘩することもない。

触っても来ないし。
触らせる隙も作らない。

だから殴られることもない。

『人間』はずるくて、卑怯で、臆病者ばかりだ…。




「いつまで持ってる?」





「…おい」






あれ?俺今話かけられた…?


「…は?」
急に話しかけられて訳が分からず「え?何が?」って言ったら、アッシュは眉間の皺を深くさせて俺の掌を指差した。

「だから、それだよ。」

掌の中の血まみれの小鳥
いつの間にか持って来たらしい。
ほとんど無意識。

俺はなんも言えなくて、今更どっかに捨てるのもどうかしてるし、埋めてやるとか、そんな優しさ持てなかった。

何も残せない皮肉な体の俺は無残な死体にすら嫉妬した。

「そっくりだな」

どういう意味でアッシュが其れを言ったのか分からなかった。
皮肉で言ったのか、本音なのか、誰と重ねたのか、俺なのか、アッシュ自身なのか。
もちろん俺だろう、と思ってた。
でもアッシュが小鳥を埋めてるときの表情をみて分からなくなった。
凄く、辛そうな、悲しそうな、苦しそうな、そんな顔で小鳥を埋めてた。
だから俺は一層小鳥の死体に嫉妬した。



お前とその小鳥は
そっくりだな


確かに、そう聞こえた。
アッシュがポソリと呟いた言葉は、俺が拾えたのは本当に偶然で、アッシュは俺に聞こえてないって思ったのかな、死体を埋めた土の前で手を少しだけ合わせて部屋へと戻ってしまった。
俺は、その場を動けなかった。
アッシュの言葉を、どう受け止めればいいのか分からなかった。
言葉のまま受け止めれば、かなりの嫌味だ。
でも埋めてるときのアッシュの表情を思い出して、憐れんでのか、とも思った。
どっちにしろ良い意味でもなんでもない。
とにかく俺には、どうしても良いものに受け止められる言葉でなかったのは確かだ。


小鳥の死体の前で、俺は一人だって再確認させられた。


知ってるよ、俺が死んだって、例え俺に墓を与えられたって、その墓前で手を合わせてくれるような殊勝な奴いないって。
だから俺は、世界を救いたい。

動いてるときに得られなかったものを、せめて死んでからでも得られたら…、なんてそんな疚しい気持ちで俺は世界を救おうとしてるんだ。




別に『人間』が好きなわけじゃない。

別に守りたい『誰か』がいるわけじゃない。


俺は、俺の為にこの力を使って、造られたこの身体を捨てるんだ。



それで、誰かの心に、少しの間だけでもいられたら、それでいいんだ…。

もう、優しくして欲しいなんて思わない。
せめて気付いて欲しいとか思わない。

『人間』じゃない、俺にそんな感情ない。



だから、壊れるのなんて怖くないし、泣いてなんかいない。



なのに何故か小鳥を埋めた土はどんどん湿っていった。








アッシュ

俺。

誰かじゃなくて、アッシュの心の中にいたいって
思ってたんだ。




アッシュだけだったから

俺を動かしてくれた人は




アッシュだけだったんだよ。







なのに




アッシュまで死んじゃったら意味ないよ…






























































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