そこは白なのか黒なのか

浮いてるのか沈んでるのかも

分からない場所だった。

そこに、俺とよく似た朱色の髪をした、だが醸し出す雰囲気が俺とは全く違う男がいた。




青年は口元に笑みを浮かべて唐突に俺に言った。


  俺の記憶も、身体も、心も全部やる。


記憶?と思った。辿ってみれば確かに俺には記憶がなかった。

俺は死んだはずなのに、何故ここにいるのか、何故青年がそう言うのか、全く現状を理解できていなかった。

だから現状の把握、という意味で頷いた。

ただ一言


  あぁ


と、それに心底嬉しそうな顔をする男に「だが」と俺は言葉を続けた。


  身体はいらない。俺には既に身体がある。


男は悲しそうな顔をしたが、俺は続けた。


  その身体はお前のものだろう


男は少し、嬉しそうな、申し訳なさそうな、なんとも器用な顔をしていった。


  俺のだと思ってたけど、違ったから。


  それでも、今はお前のものだろう。


俺が言うと、男は少し考えて「そうなのかな」と小さく笑って頷いた。


  だから心もいらない。


俺が言えば男は残念そうな顔をした。

だが、俺には『俺』という確固たるものを持っていたし、

その心もまたその男が培ってきた年月と共に育んだものだと思ったから受け取る気にはなれなかった。

他人が手にしていいものでもないと思った。

俺の表情で、俺の意思が変わらないと分かったんだろう、男は「せめて」と願った。


  俺の幸せをあげる。

  俺にはそれ以外もう何もない。

  だから受け取って欲しい。


男は余りにも必死だった。


  そしたらお前はどうなる?


男は笑って言った。


  そしたら、俺はお前以上に幸せになる。


俺は答えた。


  そこまで言うなら、


口にして驚いた。自分の声が震えていた。

そんな俺を見て男が言う。


  今までいろんなものを奪ってきた。

  でも返すチャンスをくれてありがとう。

  なぁ、アンタが欲しかったもの。今は全部その手にあるだろ?

  だから、だからさ…もう、泣かないで…

  アッシュ、大好きだよ。


なんで涙が溢れたとか

どうしてこんなにも悲しくて嬉しいのか分からない。

この男の言葉が悲しかった。

この男の言葉が嬉しかった。
この男の存在が嬉しかった。

この男の存在が悲しかった。

男が誰なのかも分からないのに。



   なぁ、お前は一体誰なんだ?



分からないが傍にいて欲しいと思った。

傍にいてくれと願った。

男はにっこりと笑って光の粒子の様に消えて、否、溶け込んでいった。




























気がつけば、見慣れない場所の、見慣れない花に囲まれていた。

男の記憶が教えてくれる。

セレニアの花。

男がはじめて、この場所で海をみて感動したんだ。

たかが、海なんかに…。

何故、分からなかったのだろう。

あの男が。

こんなに胸をつくほどに俺の心が叫んでいる。


  俺も愛している。

  お前がくれた全てにかけて


心で誓いをたて、歌声につられて『仲間』の元へと歩を進めた。
















   これからはずっと共に…