ルークが消えて

3年がたった。


俺は独り、ルークの記憶を奪って、この世界に帰って来てしまった。





ルークが救った世界は何事もなかったかの様に今まで通り正常に機能している。




ルークの事を思い出して
愛しむ人はいても
涙を流す者はもういない…。


そんなモノ

人間の存在なんてちっぽけなモノ



例えば、俺が今死んでも

「忘れない」と誰かが嘆いても

俺の死を受け入れる事ができなくても

結局、数ヶ月後には
なんの変わりもなく
穏やかな毎日を
笑って過ごしている。



思い出して胸が悼むのは
彼の人の死を愛しんだモノじゃなく
忘れてしまっていた自分を罰したもの


石に名を刻むのは
自分を忘れられたくない
現実を生きる人間の恐怖


余りにも滑稽なこの世の中


ルークの記憶が俺を責め立てるかの様に、人間への冒涜が治まらない。
ルークに犯されているような錯覚。だが、錯覚でしかない。
ルークはもういない。

ルークは俺を生かして死んでいった。

俺はルークに置いていかれた。
この世界で唯一の異質な力を持つ存在に戻った。

取り残された者達は何処へ消えていくのだろう。


ルーク、お前は俺に記憶を残して、何処に消えたんだ?




ルークが過ごしたファブレ邸の部屋、俺の部屋でありルークの部屋でもあった筈なのに、
前を向いても
後ろを振り向いても


ルークの姿は其処には存在しない。

数年前、確かにルークが過ごした部屋。
同じ時間を此処で過ごす事はなかった。

それでも、ここは確かに、俺たちの部屋だった。

なのに今は俺だけの部屋となって、何処を見ても、触っても、ルークが過ごした形跡はなかった。
父上も、母上もルークが戻らなかったことを嘆いていた。
なのに、戻ったのが俺だったからと、あっさり俺たちの部屋は、俺が過ごしていた時の状態に戻され俺だけの部屋となった。

ルークが感じられない。

形だけのルークの墓には何の感慨も浮かばない。

俺は溜まらず家を飛び出した。
母上にはとめられたが、それでも俺は邸にいる気にはなれなかった。
適当な理由をつけて世界を放浪する事にした。

俺の足は何の迷いもなくタタル渓谷に向かう。
俺が戻ってきた場所だからではない。
ルークがはじめて世界へ出た場所、エルドラント、ルークが消えた場所が見える場所、世界の傷跡。
其処が一番に見える場所だったからだ。

其処だけは、ルークが確かに存在していたと俺以外のものが証明してくれた。

あそこでルークは確かにローレライを解放した。
だからこそ、世界は救われたのだから、

俺こそがルークの存在の証明。

この世界そのものがルークが生きた証。

その筈なのに、ルークは数年前のこの場所に独り取り残されて、何処へ帰って行ったのだろう。


俺は今何処へ向かって歩いてるんだろう…
何処へ向かえばいいんだろう。

「現実」に囚われて
別れも告げず

お前は世界から消えた。

溜まらず俺はエルドラントに向かった。
崩れていて、中へ入るのも困難だったし、中に入ってからも移動は困難だった。
それでも、確かに其処には俺たちがいた痕跡があった。

俺が迷いを断ち切るためにルークに戦いを挑んだ場所。
そして俺が一度死んだ場所。
更に奥へ向かって
ルークが消えた場所に立った。

消えたルークの匂い、身体。
消えない剣で突き刺した時に出来た床の傷。


確かに此処に居た証


大嫌いな約束を、大嫌いな奴と交わした。
何よりも大切となった約束は、掛け替えのない存在となった奴と一緒に消えていった。


ルークはサヨナラも告げずに消えていった…



だから、約束は嫌いなんだ。
守られない約束は一番嫌いだ。


俺は其処でどれ位の時を過ごしたかは分からなかったが、気がつけば日は沈み、空は星で埋まっていた。

ルークが消えた場所から見た星空はあまりにも綺麗だった。
ルークに見せてやりたいと思った。

ルークと一緒に見たいと思った。

どうしても、ルークに会いたくなった。





ルーク、お前の思うとおり、世界は薄汚れている。
どうしようもなく醜い奴が蔓延って、世界を汚してる。





それでも、お前が救った世界はこんなにも美しいんだ。



















俺の足は自然とグランコクマへと向かった。