気がつけばコーラル城の地下の部屋のベッドの上にいた。
吐き気がするほど幼少時の自分そっくりな何かが隣のベッドにいた。

現状の把握ができない。
俺は死んだはずだ、何故コーラルの地下にいて、自分のレプリカであるだろうモノが目の前にいる、しかも幼少だ。
どうなっている。

周りを見渡せば見覚えのある音機関ばかりだ。
これなら使えると直ぐに手を伸ばせば妙な違和感。
降りた先の地面が近い、一歩が遅い、伸ばした腕が短い、延ばした先の手が異様に小さい。
どうなっている。

時を遡ったとしか考えられない…。
しかしそんな事が可能なのか?
確かにローレライは時を知る者とされている。
しかし操る事までもが可能なのか?



 戻りたいか?




記憶の隅に残るその言葉、俺はなんと応えた。
否、応えたのは俺じゃない。ルークだ。
しかしローレライはそれを『ルーク』の願いとして『俺たち』に時を与えた。
何故、このタイミングなんだ。
どうせならレプリカが出来る前に戻せばいいものを、
否、今は現状をどうするかだ。

これが俺の同位体のレプリカかは分からないがそうで在るならば今のうちに回線を繋げられる様にしておくに越した事はない。
幸い周りには誰もいない。
直ぐに部屋を移ろうとしたが、幼い俺ではいくら鍛えていたとは言え意識のない自分と同一のものを運ぶのは一苦労だ、引きずって行くか起こすかしかないだろう。
引きずっていってバレても面倒だと考えると起こすしかないだろう。
腹に一発拳を入れると「うぇ」っと直ぐにレプリカは目を覚ました。
俺を見ると怯えた目で此方を見るが今は構っている場合ではない。

「起きろ屑!さっさと移動するぞ!!」

控えめに言えばきょとんとした顔で此方を見ている。
言葉は理解しているのか起き上がろうとはしているが作られたばかりの所為か身体がついていっていない。
仕方がないから肩を貸すほかないだろう。

移動中に意味はないと分かっていながら一応『「お前は前の事を覚えているか?」と聞くと案の上「あ、うー」とか赤子が喋るような言葉が帰ってきた。
声帯の筋肉も衰えているんだろう。
回線が繋がるようになれば分かるかもしれないので無理に聞くこともしなかった。
その代わり移動中の会話と言えばそれぐらいで、それ以外は引きずる様にレプリカを例の部屋に運んだ。
誰が来るとも分からないんだ。レプリカの歩調に合わせてなどいられない。

そんな俺にレプリカは何も言わず着いてきた。
見慣れた音機関の前まで行くとディストがゴチャゴチャと何かを弄っている。
どうしたものかと迷っているとレプリカが「あーあー」と声を出してしまった。
『屑が』と思いつつも此方に気付いてしまったディストに何と言えばいいのか迷っていると、ディストの方から声をかけてきた。

「もう動けるのですか?」

目をキラキラとさせながら此方を興味深げに見ているディスとは確かにヴァンの味方で在るとは言い難い。
ならば協力を仰ぐ意外ないだろう。

「こいつと俺のフォニム振動数を調べてもらいたい」

それだけ言うとディストは少し考え、「何故ですか?」と聞いてくる。

当たり前の事かもしれないが調べろと言っているのだからさっさと調べて回線を繋いでしまいたい。
前に見ているので使い方なら大体なら分かっている。

「お前がやらないなら俺がやる」

そういえばディストは顔を真っ青にして「壊されては溜まらないこれは私の研究の成果です!」とまで言うので「ならばさっさとしろ」と言えば意外な答えが返ってきた。

「調べるまでもなく、それは貴方の同位体です。他のものは腐敗して乖離しました。」

一体何人自分のレプリカを造っていたのかと頭が痛くなる。
だが、これがあのルークなのは分かった。ならば回線を繋げる様にすべきだが何と説明する?
ディストは俺に自分の音機関に触れられたくないようだし、

「同位体はそう簡単に出来るものではありません。」

迷っているとディストから声がかかった。
そうだ、こいつは完璧なヴァンの味方という「」訳ではない。
ならば適当にこじつけて回線を繋いでもらう他ないだろう。

「レプリカの研究に付き合おう、その代わりこいつと俺とこいつのフォンスロットを開放して欲しい」

「フォンスロットを?貴方はフォンスロットがどういったものなのかご存知なのですか?」
「ツボの様なものだろう」
「そうです。あらゆる物質に存在する音素の要点。音素の働きはその音素を含有する物質の働きと密接に関係しているため、 フォンスロットに干渉することで物質の働きを活性、または減退させることが出来きます。この意味がわかりますか?」

つまり、回線を繋げばそれだけでルークの乖離をビックバンを早める事になると言う事か…






ND2020要塞の街はうずたかく死体に積まれ死臭と疫病に包まれる
ここで発生する病は新たな毒を生み人々はことごとく死に至るだろう
これこそがマルクトの最後なり
以後数十年に渡り栄光に包まれるキムラスカであるがマルクとの病は勢いを増し
やがて、一人の男によって国内に持ち込まれるであろう

これこそが、オールドランドの最後である







ルークは多分これを覆したいのだろう。
ならばローレライの解放までに乖離を防がなくてはならない。
だが回線なしでどうこれからやって行く?
俺は否が応でも神託の盾騎士団に連れて行かれまたあの苦痛を繰り返すのだろう。


「しかし…、」

ディストはアッシュよりも先に口を開いた。

「同位体同士だとどうなるのかはわかりません。正直同位体を造ったのも今回が初めてです。」

ディストは目をキラキラとさせやって見たいと口ほどにも物を言っている。
しかしどうする?

あの時交わした約束もある。

俺自身ルークに会って言いたい事はたくさんある。
今のままでは埒が明かない上に時間もない。
いつヴァンが戻ってくるのか分からないのだから。

…となれば答えは一つしかないだろう。

「…頼む」」