行動に移すのなんか
いつも突発的で、其処に理由は特になかったりする。
キスしたいなぁ、なんて思ったら伝わってしまったのか殴られた。
でもそんなアッシュも愛しい、って思ったら喉がグッとなって堪らず吐いた。
無性に泣きたくなったけど、なんか笑ってる自分がいる。
アッシュもそんな俺を見て「何へらへらしてやがる」て眉間の皺が深くなってる。
うん、俺もそう思うんだけどさ、
俺の謂う事これっぽちも聞かない身体持て余して、殴られたお腹と胃液で焼かれた喉がヒリヒリと熱くなっていく。
アッシュにとって俺に感情はあってないに等しいらしい。
アッシュが教えてくれた。
謂うなれば塵だ。と
汚くて生臭い
だから、殴られても文句は言えない。てさ。
別にいいんだ。俺にはもっと殴られる理由があるから…。
否、全部ひっくるめての塵発言だったのかな?
アッシュは俺のことなんでも分かるのに、俺はアッシュのこと全然分からない。
悔しいな、分からないから俺はアッシュのこと考えてばかりだ。
アッシュのこと考えながら、俺の中身はアッシュの言うとおりどんどん生臭くなっていく。
最初はどうしたらアッシュと喧嘩しないでいられるのかとか、そんな可愛くも甘いこと考えてた。
なのに、それをどう間違えたのか、俺はアッシュと仲良くなりたいから好かれたい、愛されたいって飛躍していって
今じゃアッシュのこと考えてアッシュのことも汚してる。
其れがアッシュにも分かるのか、思考が飛躍するたびにアッシュの暴力も過激さを増していった。
当然だよな、気持ち悪いもんな
自分は本当に汚いと思う
きっと俺は汚れながでなくては生きて行けないのだ
俺って誕生の仕方からして歪んでるし…
だから、身体でも
心でも
どんどん歪んでいく。
だからきっと今さらアッシュに優しくされても物足りなく感じてしまうと思う。
手を差し延べられても振り払う事しか出来ないと思う。
そんなことこれから、これから先絶対にありえない事だと思うけど…。
俺はいつも言葉が足りなかった。
どう言ったらいいか、とか全然知らなかったし、分からなかった。
邸にいた時なんて誰も指摘しなかったし、誰も教えてくれなかった。なんて言ったら言い訳にしかならないけど
其れ故の現状だ。
アッシュだけじゃない、
否、寧ろアッシュなんて全然ましな方だ。
アッシュの場合は分かるから苛々するって部類だから。
他のみんなは俺の事なんか分かってくれない。
分かろうともしてくれない。
言葉足らずから生じる誤解
誤解の先は不信
それが俺への評価だった。
だから今更、どんなに優しくされても
どんなに親身になってくれても
過大な期待はしてはいけないって頭の何処かで警告してる。
その先にあるのは絶望だから
だから、アッシュにだって期待しちゃいけない。
アッシュは分かってくれるなんて、甘えちゃいけない。
いつかアッシュも俺に嫌気がさして離れていくかも知れないんだから
そんな絶望的な考えが頭を過ぎると、アッシュは俺を殴ったり蹴ったりする。
だから俺はアッシュにそうされるとすごく安心するんだ。
まだ、俺のこと見てくれてるんだ。って実感できるから。
でもアッシュの繰り出した蹴りが見事に俺の鳩尾に入って、俺は2度目の嘔吐をした。
吐き出した嘔吐物は俺がアッシュに抱く愛にどこか似ていて
飲み込んだ唾液はなんだかアッシュの味がした
と言うよりはアッシュのものだった。
アッシュは最近、俺を殴ったりしてるとき興奮するらしいから
でもこれはアッシュが俺に対して歪んだ愛情を抱いてるわけじゃなくて、闘争本能とか殺戮本能みたいなのは性欲に連結してるんだって。
つまりアッシュが俺にこういう事する時は本当に俺のこと殺したいって思ってるときだ。
分かってるのに、俺の身体は喜んでアッシュを受け入れる。
だって今それだけアッシュの頭の中は俺で埋め尽くされてる。
そう思うと俺も興奮してくるから、噛み付くようなキスをするアッシュの頭を掻き抱いた。
もっと俺のこと考えて欲しくて、どんな感情でも抱いて欲しくて、アッシュがこうなると、俺も積極的に応える。
アッシュはキスの合間に俺の服を剥いでいく、脱がすなんて甘いものじゃなくて。
でもそんなの俺は気にしないでアッシュの下半身に手をやった。
アッシュはそんな俺を嘲る様な眼で見ていたけど、別に構わなかった。
こうやって、アッシュに俺の何かがアッシュに残ったらいいなって、甘いこと考えながら、アッシュのものを口に銜えた。
「なぁ、美味いか?」
「…ふぅッ…ん」
アッシュの逸物を食わえながら返事したら後頭部を殴りつけられた。
その拍子に熱の塊が喉に突き刺さる。
苦しくて口から外そうとすると後頭部を鷲掴みされてそのまま押さえ込まれた。
苦しくてもがいてると頭の上から「歯、立てなんなよ。舌使え」ってアッシュが命令してきた。
ちらっと、目線をあげて顔を伺い見るとなんだか楽しそうに笑ってるから、
まぁ、いっか
なんて思えて来たりして、途中まで出てきている嘔吐を無理矢理飲み込んだ。
別に、そういった事が好きなマゾヒスト的な趣味を持っている訳でも、そこまでアッシュの事を愛してる訳でもない。
そりゃ、好きじゃなかったらやらないけど、それ以上に、唯必要とされているという錯覚が俺を駆り立てる。
唯、それだけなんだ。
冬の寒さにも似たアッシュの棘が俺の何もない空虚な穴を欲している。
埋めたい、埋められたい。
だから俺はありとあらゆる穴をアッシュに晒して、アッシュはそれを突き刺しように埋めてくれる。
孤独なアッシュ。世の中に対して罪悪感しか抱けない俺。
そうやってくだらない傷の舐め合いが癖になってる。
俺はアッシュが好きだ。
アッシュは俺を殺したいほど憎んでる。
不一致が一致して出来上がった異様な関係はもう半年は続いている。
其処に在るのは自己満足であって愛ではない。
そう、分かっていても、アッシュが自分の中にいるんだって思ったら涙がでた。
「アッシュ…」
俺が不意に伸ばす手にも
「…何だ」
それを冷やかな視線を寄越しながらも俺を抱き起こして温もりを与えてくれる胸も
全てが迷信であって、先のない現実…。
下から抉られながら、俺は淡い夢を見る。
在りもしない、現を想像して俺の身体は白く汚れてく。
中も外も白く汚れた俺はそっと自分のお腹をさすった。
アッシュが自分の中に残してくれたアッシュの残骸が愛しくてお腹をさする。
そんな俺をアッシュはどう思ってるのかとか、どうせ、さげずむように見ているんだろう、とか思う。
普段なら平気だけど、アッシュに抱かれた後にそんな顔を見るのは嫌だったから、いつも見ないようにしている。
でも、最近、それを見て見たいと思い始めた自分の変化を、アッシュはどう思うだろう。
静かな水面に波紋ができて、大きな波が打ち寄せようとしている。
砂の城が崩れるか
石となるか
分からないから口にしない俺を、アッシュはいつもの様に何も言わず暗い部屋に置いて行く。
闇に木霊する扉の音と窓の外にいるアッシュの背中を追いながら今しかない関係を嘆いた。
期待はしない、そう思っても、アッシュに抱かれるたびにその気持ちは揺らいでいく。
明日来るかも分からない、始まりの分からない関係は終わりも曖昧で、寧ろ関係が在ることも虚ろで、確かな何かを感じたい。
そう思わせるアッシュの温かい温もりが俺は唯一大嫌いだ。
自分にはアッシュしかいない、でもアッシュは別に俺がいなくても平気。
寧ろ俺がいなければアッシュは独りになんかならなかった。この不公平さが腹立たしい。
決して朝まで留まる事のないアッシュにとって自分はまさに怒りと性欲の態のいい吐け口。
その口が嫌らしく吊り上げられる事はあっても、愛など愚か、優しさや労りの言葉すら出てこない。
激しく抱かれた翌日に会ったりすると、傷が塞がりきってない俺が気だるげにしているのを目にして何食わぬ顔をして罵ってくる。
そこにある俺らは、オリジナルとレプリカ。
名前のある関係
今の俺らの関係の名前は?
セフレなんて可愛いものでもないし
愛人だなんてなんの利益にもなってない。
恋人なんて鼻で笑っちまう。
聞いてみたいけど聞いたら終わるのは明確。
アッシュを怒らせて「お前なんて唯の道具だ。」見たいな事言われてボコボコにされて終わりだ。
うん、道具。何だけどさ。道具なりの関係ってか用途じゃないけど名前が欲しい。
俺がどんなにそれを望んでも明確にしたくても、無心でいなくてはならない。
それが唯一俺でも分かってる事だった。
みんなが起きるまであと3時間程度の間、俺はいつものルークに戻る為、悶々とした疑問を振り払う様にベッドに潜り込む。
床に散らばる嘔吐物も精液も見ないふり。
中に残ってるアッシュの精子もそのまま。
お腹を壊すのは分かっているけど、勿体無くて処理なんてできない。
ほどかれた包帯は明日巻き直せばいい。
血に濡れたベッドに血を流したまま潜り込むことに躊躇いなんてある訳がない。
ベッドには微かにアッシュの匂いと温もりが残っているから、この瞬間だけアッシュに包まれて、愛されてる気になれるんだ。
「お休みなさい」
その場にいないアッシュに告げた言葉は届いてなんかいない事は分かっている。
それでも、アッシュに届けば、
なんて思いながら口にしてみたけど、言葉は悲しい程冷たい空気に溶けて消えて行った。